キャンカーの実態と治療経過報告〜アイスバーグ復活を目指して


 
 これは2001年の秋に大苗で購入したアイスバーグ(FL)です
 翌年春にはたくさんの花を咲かせ次々返り咲きましたが
 2003年夏ごろからだんだん調子が悪くなってきました

 2003年は生ゴミ堆肥つくりや米ぬかまきを始めた年
 一方施肥については勉強不足のためよくわからないまま
 「バラって肥料やりすぎもよくないし〜」くらいの軽い気持ちで
 今考えれば全く足らない程度しか与えていませんでした

 有機物をたくさん施せば土中の有用微生物が増え
 バラは元気になってきっと病気知らずになるだろう
 そんな夢を描きながらせっせと米ぬかや米のとぎ汁の液肥をまき
 剪定枝や落ち葉を株元に次々積み重ねていく
 すると、いつしか土は粘りのある畑土のようになっていました。。

 

そんな2003年にはアイスバーグはすでにこの写真のような状態でした
株が弱っているのはわかるけれど具体的な原因も対策も見出せないまま
似たような状況にあった他のバラたちがぼつぼつ枯れていく・・・

そこで2005年にはすべてのバラの土を新しくし、炭を混ぜるなどして
畑土のようになった土を改良するべく再スタートを図りました
でも、アイスバーグはいっこうに元気にはならず、出てくる枝はひょろひょろと貧弱なものばかり、、、

こうして、どうしたものかと考え込んでいる時、いつもお世話になっているnaomiさんのサイトで
『オーガニックって?減農薬栽培って?』という新しいページがアップされました
naomiさんとは同じ頃から生ゴミ堆肥つくりや米ぬかまきを頑張りながら、バラの無農薬栽培を夢見てきた仲間同士
そこに書かれた現実はまさにわたしが直面しているそれと同じだったのです
土の有用微生物のためにせっせと施してきたはずの米ぬかなどの有機物が
実は腐敗病をひきおこすような微生物のエサとなってきた可能性があるとのこと・・
それはショックである一方、「やっぱりそうか・・」との思いもありました

でも、わたしはそれを懸念して今年すべての土を新しくしたのに
アイスバーグも復活しないし、他の2つのバラが枯れていくのも食い止められなかった
なぜなんだろう?ここまで弱った株はもう元には戻らないの??
そして、まだある予備軍もだんだん弱ってこんな風になってしまうのだろうか・・・
そんな疑問を抱きつつ、思い切ってnaomiさんの掲示板に相談を持ち込みました
すると、naomiさんをはじめたくさんの方々からこのアイスバーグのために丁寧な助言と励ましをいただき
特に「おさはち」さんからは専門的な見地よりの講義をしていただきました
こうして、アイスバーグ復活に向けての挑戦がはじまったのです

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ここからはnaomiさんの掲示板での「おさはち」さんとのやりとりを適宜編集して、Q&A方式にまとめてみます

(Q) 細い枝しか出なくなったアイスバーグを復活させることはできないでしょうか?

 

(A) まず、すべての木質化した枝をぎりぎりのところでカットします
   こういう木質化した枝の下に生える枝は、常に木質化した枝に水分が奪われっぱなしになり
   カルスをつくってバリアをはることもできにくいから、生きた組織に圧力がかからない
   そのため小さなシュート一つ出てこなくなると思います

(Q) 木質化した枝をつけ根から切り取ると葉っぱもなくなってしまいますが・・・

(A) 今出ている緑の細い枝と葉っぱはそのまま残し、そのぎりぎり上でカットするのです
   葉っぱは残しておかないと水分の逃げ道がなくなってしまいます
   それから基部も枯れた部分の皮を生きた部分が出るくらいに、切れるナイフなどではぎとります
   それで、枯れた部分の木部も、無理がない程度で少し削りぶしみたいに削ります
   
   この写真を見ると、基部と枝のほとんどが枯れ死して木質化しているようです
   基部については上記の通りの処置を施し
   枝部については皮1枚つながっている状態なので以下のようにします

   @ 生きた枝のすぐ上で切る
   A 生きた枝より下、枯れた枝の皮をできるだけ剥ぎ
   B その中にある木部を削ります
   C このとき「もうグラつくし、けずれない!」と思えばその時点でストップ
     グラつく生きた枝を助けるため支柱します
     支柱は今の枝の角度のまま固定します

  植物というのは、常に振動や風などで株元が揺れていると、それだけで生育がスローになるので
  今回の場合は生きた枝の下半分を固定し、欠落した組織に肉がつくようにするといいのです

(Q) とりあえずここまで削ってみました
   左写真はほとんど枯れ死している側で、削っても削っても生きた部分は出てきません
   右はその反対側で、こちらの面はまだ生きていました


 

(A) 右側画像の方向の枝はとりあえずこのくらいでいいと思いますが
   左側画像に写る方向の枝は、枝分かれする前の部分「基部」がまだ削り足りないようです
   「基部」のあたりの露見した木質部がやや沈んで灰色っぽくなっているのがわかりますか?
   この部分が「病巣の中心」、最初の進入経路なんですよ
   この部分を少し削って、その削り節を鼻で嗅いでみるとカビのにおいがすると思います
   多分、沈んで灰色っぽくなっている部分を全部取ろうとすると、地中の根まで削らなくてはならないので
   今回はもう少し削るところでストップしたほうがいいと思います

   わたしはどうもバラを人に置き換えて考えてしまう性格なので
   この症状を示すレベルでは一度に全部排除しない方がいいのではないかと考えます
   とりあえず今くらい切除し、術後の経過を見て、バラが回復傾向を見せ始めたら再度手術しますかね

   実際これだけ切除しておけば、病気の進行は衰えますし
   あまり生の部分を一度に傷つけると、その部分からの体内水分漏れがひどくて
   逆に今ある生きた枝がしおれてしまう恐れがあると思うのです
   だからわたしは2、3回に分けて手術をします
   もちろん体力があれば1回で終わらせますけどね(面倒だし^^)

(Q) すみません、もう少しだけのつもりが、どこまで削っても同じ状態なのでついここまで削ってしまいました(汗
   それでも今回とても嬉しかったのは
   皮1枚でつながっているであろうと思っていた左の枝が、実はまだまだ生きている部分がしっかりあって
   生きている部分だけにしてもこれだけ枝が残ったのです
   まだまだ復活の望みがあるような気がしてきました
   

 

(A) これはまたものすごく削りましたね!ちょっとだけ削りすぎかな?・・。
   ま、ここまで切れば、当面枝の枯れは防げるでしょう
   「つまようじ」に使いたくなるような断面の白い木質部というのは腐敗しにくいんですよ
   
   ”では、枝は最初どこが腐敗するの?”と思うでしょう
   枝は生の表皮と枝中心にあるスポンジ部分が一番やられやすいのです
   表皮は栄養分を多く含むから、悪くなると病気のエサになりやすい
   (爪でひっかいても傷つくくらいだし)
   
   スポンジ部分は植物の性質上、外気に触れることは少ないものの
   内部侵入されると硬い木質部のせいで病気の独占場になってしまう
   木質の試験管にスポンジの培養土、湿気もあって快適なのでしょうね
   外部攻撃もその木質部でガードされるし・・・

   したがって、今回のアイスバーグのような場合
   傷んだ表皮とスポンジ部分の露見で、充分効果があると思うのですよ
   試験管割れば、病気の独占場はなくなるわけですから
   薬でも有用微生物でも病気抑制効果は出るでしょうね


(Q) 今回削ってむき出しになった部分は薬を塗ったりテープを巻いたりした方がいいのでしょうか?

(A) 傷口への過度のコーティングはご法度です!
   透けるくらい薄ーく薄ーくしてください
   分厚く塗ると、その部分からの蒸散が全くできなくなるので
   蒸散不良でおかしくなることがあります
   (膏薬が切れてもはりっぱなしのサ○ンパス、かぶれますよね)
   (接木のボンドも分厚いと蒸散不良でおかしくなることがあります)
   植物は生きるために枝からも呼吸と余分な水分蒸散をしているのです

(Q) 今回は殺菌剤トップジンのペーストを削った部分に薄〜〜くぬってみました
   他に術後気をつけることはなんでしょうか?


(A) 今後大変重要なのは「養生地」探しです
   ポイントは”まわりのバラよりも、ちょっとだけ高いところに置く”ということ
   こうすることで、日当たりや風通しが良くなり、光合成や代謝機能をあげる効果があるので
   株が活性化しやすくなるのです
   株が活性化してくると、おのずと病気に対する抵抗力もあがってくるものと思われます
   逆に、朝夕に沸き立つ病気まじりの蒸気も、高台のおかげで改善されるので
   株の負荷(ストレス)は下がるでしょう
   傷口への直射日光、過湿はこわいですよ、しおれますから。。

  
あとは生命力がものをいってくるのだと思います 

(Q) ここまで手を尽くせば回復の見込みはあるでしょうか?

(A) これで術式としては第一関門突破です
   まず、この時点でこの病気よりバラのほうが優位になると思いますよ
   優位というのは、自然治癒力が勝るということです
   バラに限らず、こういう風に切り口をナイフなどで削ると
   形成層はすぐ活性化してスムーズに傷を治すことができます
   この画像を見る限りきれいな切り口なので、まずは大丈夫でしょう
 
   ただし、病気の進行は抑制できても不安はありますね
   完璧にいなくなったわけではないし・・・
   そこで出てくるのが薬による病気の治療、ダコニール1000倍希釈液の潅水です
   一度潅水するだけでもそこそこ効果はあるので
   薬の潅水が嫌でなければ試してみてください

(Q) ここまで削ってどういう風にこの部分がなれば結果オーライなのでしょうか?


(A) 木質部が骨と例えると、表皮部は皮膚と筋肉
   この皮膚と筋肉にあたる表皮部が超肥大して
   最終的には木質部がなくても表皮部が分厚くなり、代わりを果たすようになります
   (よく樹木でそういうのを見るでしょう?)
   バラもその樹木の性質はあるのです
   今回のアイスバーグは多分そうなるか
   全部隠れませんが、木質を覆い隠すような「のみ込み」が起こると考えられます

(Q) このアイスバーグのような状態になるのは
   地植えにされている間に病気にかかったからなのでしょうか?


(A) 今回のパターンは
   naomiさんの 『オーガニックって?減農薬栽培って?』でのお話と同じものです
   どうやらこの病気は、風通しと日当たりの悪い場所で乾きにくい土壌
   または乾かさないようにしている土壌などをこよなく愛するやつのようです
   このため、調子をくずして落葉したり、枝の何本かが枯れてくると
   皮肉にも風通しと日当たりが良くなってくるので
   病気は一時的に減少し、株が回復傾向になります
   でも、小さくなりながらでも葉が茂り始めるので
   ここで第2次の病気の猛威がはじまります


 
 このサイクルを何度か交わすことで次第に株の体力(貯蓄)は底をつき
   栄養吸収すらままならないほどへろへろになります
   このあたりからバラ自身、株や根内部への侵入をガードできなくなってしまうのでしょう
   株内部に入られると薬すら効きにくく
   ますます妨げるものがなくなるので、なおるきざしをほとんど見せることなく朽ちていくのです
   (浸透性の害虫薬はあっても、浸透性の殺菌剤は意外と少ない)

   この病気の特徴は
   枝が枯れこんでくるまで潜伏していることがわかりにくいこと
   せいぜい葉や枝が小さく感じるくらいなのです
   ホントやっかいなやつなんですよ

(Q) この病気は「キャンカー(枝枯れ病)」とは別物なのですか?
 
 キャンカーとは、きれいに切れていない切り口などから病原菌が侵入し枝が枯れて・・
   と、園芸書には書いてありますが
   今回の症例は土壌から入った腐敗菌の一種(?)がまずその引き金をひいたということですよね?

(A) 「枝枯れ病」というのは病原菌名ではなく症状名なんです
   要するに枝を枯らす病気は一つではない
   何の病気か断言できないものの総称と申しましょうか・・・
   だから、根からであろうが枝葉からであろうが、病気で枝が枯れると「枝枯れ病」なのです

   でも、白紋羽(しろもんぱ)みたいに病原菌が断言できると
   「枝枯れ病」ではなく「白紋羽病」になります
 
   仮に最初にこの名前をつけた人が病原菌を知っていて「枝枯れ病」とつけたとしても
  
 近い症状を示す病原菌も多いので、わたしたちは違うものを指しているかもしれない・・
   ということも十分考えられるわけです

   普通の園芸書に出てくる病気というのはほんの「氷山の一角」
   学生時代「土壌病理学」を学んだけれど、それでも「氷山の一角」なんだと
   わたしも最近特に痛感していますよ

   でも、これらの病気は、環境的、人為的なものが多いし
   パターンが似ているから、治療法はそれほど多くなく
   わたしたちは何とかやっていけるのでしょう
   病気は違ったけど効果あり!って感じでね


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(後書)
アイスバーグ復活に向けて
ひとつひとつの疑問に対し、大変お忙しい中にもかかわらず丁寧に答えてくださった「おさはち」さんには
心より厚くお礼申し上げます
また、naomiさんをはじめ、一緒にこの病気について考えてくださったみなさんにも
とてもありがたい気持ちでいっぱいです
本当にみなさんありがとうございます!
そして、同じような状況に悩む方々も、これからぜひ一緒に頑張っていきましょう
そのためにこのページがお役に立てたら幸いです
なお、今後のアイスバーグの様子は随時ブログや掲示板などで発表しながら
いずれこのページの続きとしてまとめる予定です

(2005年10月6日)

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嘆きの報告。。

大きな手術を行ったアイスバーグは
その後順調に回復して新芽も展開しつつありました
ところが
ちょうど他の鉢バラを植え替えしているとその土があまりに悪いのが気になり
きっとアイスバーグの根も窒息しそうなのではないかと心配して
つい植え替えを強行してしまいました
しかも、お天気がよく気温も高い日に水やりを忘れてしまうというヘマをやらかし
気がつくと枝がシワシワに・・・!

結局アイスバーグはわたしの余計なおせっかいと大きなミスにより
再起不能となってしまいました
あの時植え替えさえしなければきっと枯れることはなかったと思います

バラのために
「やらなくてはならないこと」と「やってはならないこと」と
このたびはたくさんのことを勉強しました
今後はせめてこの失敗が生きるように
他のバラを大切に育てていきたいと決意した次第です。。。

(2005年12月)


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